骨と皮ばかりになった十四、五の娘

 骨と皮ばかりになった十四、五の娘が、岩の窪みに落ちた米粒を一つ一つひろっては、泥をふいて食べている。そのむこうの気違いのような眼つきをした裸の兵隊は、オオハコベを口いっぱいに頬ばり、唇から青い汁を垂らしながらニチャニチャ噛んでいる……そういう人間のすがたも、間もなくまた薄闇のなかに沈む。そうして日が暮れる。「そろそろ水汲みに行く時間だ」 太郎は勇みたつ。洞窟に入るようになってから、一日じゅう母のそばにいて、あれこれと奉仕できるのが、うれしくてたまらない。太郎は遠くから美しい母の横顔をながめながら、はやくいいつけてくれないかと、緊張して待っている。「太郎や、水を汲んでいらっしゃい」 その声を聞くと、かたじけなくて、身体が震えだす。母の命令なら、どんなことだってやる。磯の湧き水は、けわしい崖の斜面を百尺も降りたところにあって、空の水筒を運んで行くだけでもクラクラと眼がくらむ。崖の上に敵がいれば容赦なくねらい撃ちをされるのだが、危険だとも恐ろしいとも思ったことがない。水を詰めた水筒を母の前に捧げると、どんな苦労も、いっぺんに報いられたような深い満足を感じる。「あれは幾歳《いくつ》のときのことだったろう」 ある朝、母の顔を見て、この世に、こんな美しいひとがいるものだろうかと考えた。その瞬間から、手も足も出ないようになった。このひとに愛されたい、好かれたい、嫌われたくないと、おどおどして、母の顔色ばかりうかがうようになった……。 太郎は頭のうしろを保護室の板壁にこすりつけながら、低い声で暗誦をはじめた。「旅人よ……行きて、ラケダイモンに告げよ……王の命に従いて……我等ここに眠ると」

— posted by id at 04:25 pm  

T: Y: ALL: Online:
Created in 0.0783 sec.

http://yusuke-tomoi.jp/